2021年4月11日日曜日

Mandy Patinkin "Children and Art"


アメリカの俳優で歌手のMandy Patinkin(マンディ・パティンキン)が2019年にリリースしたカバーアルバム『Children and Art』を最近聴いています。名門Nonesuchレーベルからの作品で、プロデュ―スはトーマス・バートレット。ルーファス・ウェインライトやトム・ウェイツ、ランディ―・ニューマンらの名曲をカバーしている一枚です。(カワズ)


Mandy Patinkin(マンディ・パティンキン)はアメリカのドラマや映画で活躍している名俳優。近年では、ドラマ『クリミナル・マインド FBI行動分析課』や『ホームランド』でメインキャストを演じていました。個人的には、『ホームランド』シリーズで演じたソウル・ベレンソンのキャラクターに感銘を受けてファンになりました。

『ホームランド』は残念ながらシーズン8でファイナルを迎えたのですが、海外ドラマ史に残る名作だと思います。このドラマは、CIAをはじめとする各国の諜報機関の暗躍をモチーフにしながら、政治的アイデンティティや国家観や愛国心の危うさ・脆さ・揺らぎをメインテーマにした作品。と同時にジャズに対するリスペクトを随所に感じさせるドラマで、(ここでは細かい言及は避けますが)登場人物の生き様にアドリブ的なスリルを常に垣間見せつつも、最後にはしっかりとテーマに回帰するあたり、どこかジャズの音楽性と通じるようなエッセンスが脚本自体に宿っていたようにも思います。劇中のサウンドトラックもセンスがあって、音楽ファンも唸らせるドラマです。

本題に戻ると、マンディ・パティンキンは俳優活動の傍ら、音楽家としての顔も持っています。オリジナル・ブロードウェイをはじめミュージカルに造詣が深いそうで、過去にいくつかの音楽作品も発表しています。そんな彼が2019年にフィジカルリリースしたのが、今回紹介する『Children and Art』です。リリースはニューヨークの名門レーベルNonesuch。プロデュースは、サム・アミドンやスフィアン・スティーヴンスをはじめ、現行のUS音楽シーンで多大な影響力を発揮している敏腕トーマス・バートレットが手掛けています。そして、ルーファス・ウェインライトやトム・ウェイツ、ランディ・ニューマンらの名曲をカバーしている、とても豪華な一枚なのです。



マンディ・パティンキンとトーマス・バートレットとの出会いは本作より少し遡ります。Nonesuchレーベルの紹介で数年前に二人は意気投合。『Diary: January 27, 2018』『Diary: April/May 2018』『Diary: December 2018』という3枚のアルバムを制作しました。本作『Children and Art』は、デジタルリリースされていたこの3つの『Diary』シリーズで生まれたレコーディングから厳選されたアルバムということになります。



知名度のある俳優がリリースする音楽作品には、自己満足的でコアなファンにしか届かないような、言ってしまえば音楽的な評価に値しない残念感(と時折その裏返しとしての愛らしさや憎めなさ)を残すことが古くからしばしばあるように思うのですが、本作は、そうしたある種のサブカル的な逃げ道のないところに位置していると感じています。


悲壮と慈愛がない交ぜになったような感情を歌に滲ませるパティンキン。彼の個性であるオペラ調のヴォーカルとの動静のバランスを意識したのか、バートレットによるミニマリズムに徹したプロダクション(ピアノを中心とした引きのアレンジメントとメランコリックなサウンドの質感)が、その渋み溢れるパティンキンの存在感を最大限引き立てています。その結果、深い余韻を残しながら決して仰々し過ぎない、クールかつ内省的なアルバムに仕上がっています。

どのテイクも良いですが、中でもランディー・ニューマンのカバー「So Long Dad」と「Wandering Boy」の2曲は個人的なフェイバリット。ランディ・ニューマン特有の映像美を喚起させるソングライティングと、パティンキンが宿す円熟味との相性の良さを感じました。

Mandy Patinkin - So Long Dad

CDは国内で入手困難な状況ですが、ストリーミングサービスで聴くことができるので、ぜひチェックしてみてください。


Mandy Patinkin "Children and Art" (2019)
1. Going to a Town (Rufus Wainwright)
2. Kentucky Avenue (Tom Waits)
3. If I Had a Boat (Lyle Lovett)
4. From the Air (Laurie Anderson)
5. So Long Dad (Randy Newman)
6. Children and Art (Stephen Sondheim)
7. To Be of Use (Teitur)
8. My Mom (Marc Anthony Thompson)
9. Wandering Boy (Randy Newman)
10. Fear Itself  (Taylor Mac)
11. Raggedy Ann (Mandy Patinkin)
12. Refugees/Song of the Titanic (Joshua Rayzner)