先日、インドネシアの音楽家モンド・ガスカロが関わった楽曲を集めたプレイリストをSpotifyで公開しました。彼はシンガー・ソングライターとしてだけでなく、コンポーザー、アレンジャー、プロデューサー、鍵盤奏者など様々な顔を持っています。今日はそのプレイリストでセレクトした全曲の解説をします。(カワズ)
①Senandung Lagu Lama / Mondo Gascaro
様々な映画のオリジナル・スコアやサントラの音楽監督などを手がけてきたガスカロ。本作は1950年代にヒットしたミュージカル映画『Tiga Dara(三人姉妹)』のサントラのリメイク版(2016)に収録されている、本人歌唱のナンバーです。《シネマティック・ミュージック》と称される彼の音楽性が見事に結実したロマンティックな楽曲。
②Silly Little Thing (feat. Sore) / Atilia Haron
以前、ガスカロはインドネシアの人気グループ、Soreのメンバーでした。この曲はバンド時代に、マレーシアの歌姫アティリア・ハロン(Atilia Haron)のアルバム『Indah』にフィーチャリング参加した、ガスカロ作曲のメロウなナンバー。ちなみにそのアルバムには、映画『タレンタイム』の劇中歌として使用された名バラード「Angel」も収められています。
③No Fruits for Today / Atilia Haron
同じくアティリアが歌うSoreのカバー曲。オリジナルバージョンはSoreの1stアルバム『Centralismo』(2006)に収められ、その後にインドネシア映画『Berbagi Suami (Love For Share)』でもサントラ使用された、バンドの代表曲です(ガスカロは本作の作曲者)。アティリアは自身の音楽性について、Soreからの影響を公言していていますので、きっとこのカバーも悲願だったのでしょう。原曲が持つ都会的な雰囲気を保ちつつ、さらに現代的にアレンジしています。
④Indahnya Sepi / Mondo Gascaro and White Shoes & the Couples Company
インドネシアの伝説的バンド・チャセイロ(Chaseiro)の中心人物、Candra Durusmanのトリビュートアルバムが今年リリースされました。この記念すべき作品でガスカロは、インドネシアのインディーバンド、ホワイト・シューズ&ザ・カップルズ・カンパニーとコラボレートしています。ガスカロがリードボーカルを務めるこの曲は、 Durusmanのソロ作『Indahnya Sepi』(1981)のタイトルナンバー。ちなみにこのトリビュート盤には、モニタ・タハレア(Monita Tahalea)とジェラルド・シタモラン(Gerald Situmorang)のコラボ作「Perkenalan Perdana」も収録されています。
⑤Angin Kencang / Noh Salleh
⑥Bunga Di Telinga / Noh Salleh
マレーシアの人気バンドHujanのフロントマン、ノ・サリ(Noh Salleh)。いずれも彼のソロ作『Angin Kencang(強い風)』収録曲です。ガスカロはこれらの楽曲に鍵盤奏者として参加し、さらにアルバム全体の共同プロデューサーを務めています。先述のAtilia Haron同様、ノ・サリもまたSoreをリスペクトしており、インドネシアだけでなくマレーシアでもSoreやガスカロの人気が高いことが分かります。アルバムはプロダクション・デシネから日本盤がリリースされています。
⑦Untuk Perempuan Yang Sedang Di Pelukan / Payung Teduh
ガスカロはSore脱退前夜の2012年、自身が代表を務める音楽レーベルIvy League Musicを立ち上げました。パユン・テドゥ(Payung Teduh)はそのレーベル第1弾アーティストで、この曲が収められたアルバム『Dunia Batas』はガスカロがプロデュースした作品。全編を通して南国のフォーキーな空気感が詰まった素晴らしい一枚です。パユン・テドゥは昨年セカンドフルアルバムをリリースし、AORやシティーポップを通過したその音楽性でさらに人気を高めています。
⑧Kau Hujan Dan Rindu / Krisna
⑨Indah / Krisna and Witrie
インドネシアのベテランシンガー・ソングライター、Krisnaのセルフタイトルアルバムから2曲。ガスカロは本作の音楽ディレクターで、且つオーケストラ・アレンジを手がけています。アルバム全体を通して、80〜90年代的なアダルトで洗練された世界観が醸し出されていますが、決して古びた質感ではなく、しっかり現代リスナーの耳に届く仕上がりになっているのは、ガスカロの技術的貢献も大きいのかもしれません。
⑩Jawab Nurani / Sore
⑪Paseban Cafe / Isyana Sarasvati
数年前からインドネシアではKFC(ケンタッキーフライドチキン)が独自の音楽レーベルを開始し、お店でCDを購入することができるサービスを展開しています。これら2曲が収められたアルバム『Fariz RM & Dian PP in Collabolation with』もKFCのレーベルからリリースされている一枚。両曲ともにガスカロが音楽ディレクターを務めました。主役の1人、Fariz RMはインドネシアを代表する著名な音楽家で、昨今では若手アーティストとのコラボレーションも頻繁に行っている人物です。
⑫Teman Sejati / Mocca
日本でも知られた存在の人気インディーバンド・モカ(Mocca)。つい先頃にリリースされたニューアルバム『Lima』(2018)は、プロデューサーにガスカロを迎えて作られました。アルバム制作に際してバンドは、以前から親交のあったガスカロにアプローチ。ミキシング・エンジニアとして依頼された当初は断っていたらしいのですが、いつのまにかプロデューサーとしての役割を担うことになったそう。彼の参加によって、長年の活動で培ったモカの音楽性がさらに広がったように感じます。
⑬We Are the Stars / Darryl Wezy
ダリル・ウェジー(Darryl Wezy)は、欧米シーンでも通用するような普遍的なポップミュージックを奏でるシンガー・ソングライター。本作が収録されたアルバム『Maze of Fears』はプロダクション・デシネから日本盤も発売されています。インドネシアではガスカロが主宰するレーベルIvy League Musicからオリジナルリリースされており、この曲で彼は鍵盤奏者として新鋭のレーベルメイトをサポートしています。
⑭A Deacon's Summer / Mondo Gascaro
⑮Saturday Light / Mondo Gascaro
⑯Komorebi / Mondo Gascaro
最後はガスカロ本人名義を3曲。「A Deacon’s Summer」はソロアルバム『Rajakelana』収録曲であり、アルバムの先行シングル。スティーリー・ダンの名曲「Deacon Blues」に影響を受けて作られたナイスAORです。「Saturday Light」はアルバム発表の一年以上前にリリースされた7インチシングル。B面がプレイリスト最後の「Komorebi」です。その7インチ盤の2曲はリリースするや否や瞬く間にソールドアウトになったため、現在では入手困難な一枚ですが、『Rajakelana(旅する風)』の日本国内盤のボーナストラックとして収録されています。