2013年4月12日から2014年2月13日までの1年弱の間、僕はTwitterやFacebook上で、【日々の余韻】というタイトルの投稿を毎日行っていました。基本的に日々の投稿は短めのディスクレビュー。それと月に一回程度、コラム的に長めの文章を書いていました。
今日は、カナダ・トロントのシンガー・ソングライター、キャリン・エリスについて【日々の余韻】で書いた記事を再アップします。(カワズ)
2013年9月1日【日々の余韻 Daily Afterglow 143】
Karyn Ellis 『Even Though The Sky Was Falling』
キャリン・エリスはイギリスに生まれ、カナダ・トロントで精力的に活動する女性シンガー・ソングライター。2003年に初のミニアルバム『Bird』を、2005年にフルアルバム『Hearts Fall』を発表。ともにアコースティックギターのフォーキーなサウンドと、ライブで培ったエモーショナルな歌声をじっくり聴かせてくれる内容でした。そして今回紹介する通算3枚目の『Even Though The Sky Was Falling』は、より色鮮やかで深みを増し、10曲全てが聴き応えある本当に素晴らしい一枚です。
それまでの2枚はどちらかと言えばアーシーでカントリー/フォーク色が前面に出た印象でしたが、『Even Though~』は、所謂インディ・ロックやオルタナティヴ・カントリーといった2000年以降の現代的な音楽性への接近が顕著な作品。さらに彼女の持ち味である「ライブ感」に加えて、アレンジやミックスなどの時間のかかるスタジオワークにもこれまで以上に重点が置かれ、その結果、よりバラエティに富んだ普遍性の高いポップな作品に仕上がっています。
自分がこのアルバムの素晴らしさを最初に実感したのは、タイトル曲の「Even Though~」を聴いた時でした。前半は抑え気味に、そして後半はキャリンの印象的なコーラスワークと共にこみ上げるように展開していくドラマティックなナンバー。でも仰々しさは微塵もなく、むしろその喜怒哀楽が入り混じる内省的な世界観に、自分の心が優しくえぐられるような感覚を持ちました。アルバム後半の「Be My Girl」や「Ten Stories」も、このアルバムに深みと慈しみを与える曲です。
またアルバムの中には、「Little Grey Sparrow」や「Shooting Star」といった、少女のような純真さとミュージシャンとしての遊び心に溢れたナンバーも。これらの曲が作品の中で抜群の存在感を示し得ているのは、アルバムの共同プロデューサーであるドン・カーの手腕が大きいように思います。ドン・カーは、長年ロン・セクスミスバンドの一員で、セクスミスとはケレレ・ブラザーズというバンドを組んでいる人物。そして自らもソロ活動を行うアーティストで、あらゆる楽器を自在に操る彼がもたらすサウンドには、いつも子供のようなイノセンスが宿っています。
興味深いのは、様々なタイプの楽曲がありながらもアルバム全体として揺れが無く、統一感があること。その背景にあるのは、前作から4年という長い歳月の中で育まれた、彼女の歌い手としての表現力の高さです。時に情熱的に、時に穏やかに響くその歌声と、彼女の歌に対する真摯な眼差しは、この作品にストーリー性を滲ませ、そしていつまでも聴く者を惹きつけて止みません。
2009年にひっそりと生まれたこの傑作とともに、彼女の歌声が一人でも多くの人の耳に届くことを心から願っています。
Karyn Ellis 『Even Though The Sky Was Falling』(2009)
- Low
- Even Though The Sky Was Falling (One Beautiful Day)
- Bitter Grasses
- Not Looking For Love
- Motorcycle Ride
- Little Grey Sparrow
- Shooting Star
- Be My Girl
- Ten Stories
- Beauty
Karyn Ellis 'Even Though The Sky Was Falling (One Beautiful Day)'
Karyn Ellis 'Ten Stories'
Karyn Ellis 'Shooting Star'