イギリスのオルガン奏者ロリー・モア(Rory More)による7年振りのソロ作『Through the Dappled Dell』が今年リリースされました。今回はこのニューアルバムや、彼がこれまでに関わった作品をいくつか紹介します。(カワズ)
ロリー・モア(Rory More)
ロリー・モア(Rory More)はロンドンのオルガン奏者です。90年代の終わりから今も活動するイギリスの名ジャズトリオLes Hommesのメンバーであり、Rumerをヴォーカルにフィーチャーしたステレオ・ヴィーナス(Stereo
Venus)や、Anna SheardとWYLLOWEというユニットを組んでいたりと、ソロ名義の他にも幅広く活動している人物です。自主レーベル《Sudden Hunger Records》からリリースしています。
Rory More "Through the Dappled Dell" (2021)
今年の前半、本人名義のニューアルバム『Through the Dappled Dell』がリリースされました。これまでの作品と同様、古いサウンドトラックやジャジーなライブラリー音源のような、ヴィンテージなムードを存分に感じさせる魅惑のラウンジミュージックに仕上がっています。前作『Looking for Lazlo』ではAnna SheardとGemma Rayをフィーチャーし、全体の4割程度にボーカルがありましたが、今作ではAnna Sheardが一曲参加しているだけで、残りはすべてインストナンバー。後述しますが、盟友Anna Sheardとは2019年にWYLLOWEという別ユニット作をリリースしているため、ソロ名義では差別化を図ったのかもしれません。結果的に、前作と比較してポップさ(取っつき易さ)は控えめですが、より渋みを感じさせる一枚になっていると思います。
Rory More "Looking for Lazlo" (2014)
高揚感溢れる流麗なストリングス、上品なヴィブラフォン、切れ味の良いオルガン。Rory Moreのソロ名義での一作目となる『Looking for Lazlo』は、映像的かつ美しい旋律と作品全体に通底する夢見心地なサウンドスケープが贅沢な一枚です。収録された全13曲のうち、Anna Sheardが4曲、Gemma Rayが1曲ボーカルでフィーチャーされています。残りのインスト曲が合間に挟まれていて、いわばサウンドトラック的な構成になっています。この数年前にリリースされたステレオ・ヴィーナスのソフトロック~オーケストラルポップ的な質感も継承していて、いわば姉妹作ともいえるアルバムだと思います。
Les Hommes "The Sinner" (2017)
Les Hommesは90年代から活動しているジャズトリオです。Rory Moreはグループの中心人物であり、バンドの鍵盤奏者。本作は、なんとグループのフルアルバムとしては15年振りとなる2017年作です。古いサントラやイージーリスニングなどが素材となっているのはRory Moreのソロ名義同様ですが、しっかりと作りこまれたオーケストラルポップ的なアプローチのソロアルバムと比較して、ラテンジャズなフレイヴァ―の軽快で洒落たグルーヴ感・ライヴ感が際立ちます。時折見え隠れする感傷的な雰囲気も好きです。イギリスのボーカリスト、ルーマーが「Water Waltz」のメインボーカルと「Dolores」のコーラスに参加しています。
Stereo Venus "Close to the Sun" (2012)
イギリスを代表するボーカリスト、ルーマーを全編にフィーチャーしたポップセンス溢れる一枚。「John Sebastian's Girl」をはじめ、彼女のエレガントな歌声に彩られた英国流ラウンジ~ソフトロックが詰まっています。ちなみに本作は元々、『Coffee and Honey』というタイトルで2010年に韓国でリリースされていました。その時のルーマーは本名Sara Joyceとしてクレジットされています。
WYLLOWE "Fortunate Fool" (2019)
盟友Anna Sheardをボーカルに迎えた新ユニットWYLLOWE(ウィロウ)の2曲入りシングル。ソロ1stアルバム『Looking for Lazlo』では4曲でボーカルをとっていたAnna Sheardですが、新作『Through the Dappled Dell』では1曲のみ。今後、Annaとのコラボレーションはこちらのユニットで主に展開されていくのかもしれません。