2015年8月5日水曜日

サンパウロ、ソウル、ブエノスアイレス




今日はファビオ・アドーレのニュー・アルバムや、その他、最近好んで聴いている新譜のことなどを書きます。(カワズ)


ブラジル・サンパウロのシンガー・ソングライター、ファビオ・カドーレの新作『アクト・ウン』が先月リリースされました。通算3枚目となる本作は、アルゼンチンのピアニスト、エルナン・ハシントとの共同名義のアルバムで、清々しいブラジリアン・コンテンポラリーの魅力が詰まったデビュー作『Ludico Navegante』とも、より繊細さやたおやかさを兼ね揃えたセカンド・アルバム『インスタンチ』とも違う、上品な質感のジャジーなサウンドをじっくりと味わえる内容に仕上がっています。前作『インスタンチ』に収録された大名曲「ヴィアジャンチ」のようなリード・トラックはありませんが、ハシントが奏でるエレガントなタッチのピアノとカドーレの甘くしなやかで深みのあるボーカルが、静かな夜に心地よいメロウネスを運んでくる一枚です。控えめながらも時に独創的に響くギターも聴き応えがあります。

Fabio Cadore “Act 01”


カドーレの活動拠点であるサンパウロと言えば、9月に来日公演を行うダニ&デボラ・グルジェル・クアルテート(DDG4)をはじめ、“ノヴォス・コンポジトーレス(新しい作曲家たち)”と呼ばれる新世代のアーティストを数多く排出する音楽都市として近年注目されています。彼らはみな互いに影響し合い、交流を深め、共演などを通じて切磋琢磨しながら、既存のブラジル音楽に刺激的かつ新鮮な風を吹き込んでいます。例えば先述の「ヴィアジャンチ」のアカペラヴァージョンのミュージックビデオを製作しているのは、映像作家としても活動するDDG4のダニ・グルジェルです。
ダニ&デボラ・グルジェル・クアルテートは、6月にヴィレッジ・ヴァンガード限定の企画盤をリリースしました。『NEON』と題された今作に収録されているのは、良く知られたロック&ソウルな名曲のカバーばかりです。選曲自体は極めてオーソドックスながらも、彼らの卓越した演奏力から生まれる比類なきグルーヴ感と凝ったアレンジは健在。熱心なブラジル音楽ファンのみならず幅広いリスナーを唸らせる作品となっています。来日公演に合わせて発表されるニュー・アルバム『Garra』も楽しみでなりません。

DDG4 “NEON”




話を戻しますが、先ほど紹介した「ヴィアジャンチ」は、韓国の音楽家キム・ジョンボムとカドーレとの共作として知られています。ジョンボムは現在プディトリウムという名前で活動中で、これまでに『エピソード:別れ』『エピソード:再会』という2枚のアルバムが日本国内盤として発売されています。ファースト・アルバム『別れ』にはカドーレが歌う「ヴィアジャンチ」のさらに別ヴァージョンが収録されているのですが、そのプディトリウム名義の「ヴィアジャンチ」が7月にアナログ7インチ盤としてカットされました。カップリング曲は「トゥ・コントレ・モア」で、こちらはセカンド・アルバム『再会』に収録されています。両面とも素晴らしいナンバーですので、未聴の方はぜひ聴いてみてください。
Pudditorium ‘Viajante c/w Tout Contre Moi’


ちなみにカドーレは、今秋3年振りに来日公演を行うカルロス・アギーレとも交流があるようです。現在のアルゼンチン音楽シーンを牽引するカルロス・アギーレと、数々の音楽的結び付きを通じて成長を続けるファビオ・カドーレ。二人がステージで共演する姿を、いつか生でも見てみたいものです。